美を知るためのブックガイド002 「花政のしごと」

美を知るためのブックガイド002 「花政のしごと」

古都の四季を彩り続ける“しつらい”の美しさ

『花政のしごと』(青幻舎)

 

京都で古くから愛されている一軒の花屋がある。創業はなんと1861年(文久元年)。つまり150年以上にわたって古都を彩り続けている。本書は長い歴史を持つ花屋「花政」の仕事の魅力に迫った一冊である。

 

「花政」の仕事は、旅館や料亭、菓子処、寺や茶室など、京都の文化を支え続ける場所へ花を届けるだけではない。それぞれの場所にふさわしい花を選び、調和の取れた器に活け込む。それは四季を通じて気候や風土に精通していることはもちろん、変わりゆく風景に極めて自然に溶け込む高度な技術の上で成り立っている。その様子は当然ながら季節ごとに異なる。

 

レストランの中庭に活けられた、華やかな春の白藤。病院の待合室に涼やかさを与える夏の八角蓮と竜胆。秋の料亭を渋く彩る桔梗や木通。ギャラリーに暖かさを添える冬の莢蒾やダリア、そして祇園に師走の始まりを告げる餅花。ページを繰ると「鮮やかでありながら空気感を損なわないカラー印刷を通して、「花政」による四季の移ろいを感じることができる。

 

また本書が単なる作品集以上の魅力を持っているのは、「花政」とゆかりのある人々によるコメントや文章の役割も大きい。職人たちが見せる「花を納めた家のしつらいに真摯に向き合う姿」(杉本歌子氏)や、「鰻の寝床のお店のそのまた奥から大きな声で『いつもおおきに~おはようさん』と明るく元気でハツラツとした声が聞こえてくる」(永松仁美氏)という、「花政」の日常風景を伝えている。

 

2024年には5代目の藤田修作氏による初の個展が催された。季節の花々を取引先へ届けるだけでなく、活け込みまでを含めた“新たな花屋の形”を模索した50年の集大成と呼べる内容だったという。藤田氏の中にある作家性の一端は、本書でも「一材の花」と題されたページに収められている。

 

当主・藤田氏はじめ総勢19名による「花政」の仕事は、伝統と変化が常に共存する京都と呼応し、今日も風景を形作っている。そして本書は「花政」による“しつらえ”の美しさが垣間見える貴重な内容といえるだろう。

 

 

 

【書籍INFO】

書籍 「花政のしごと」

青幻舎 / 2,500円+税 / 2018年4月26日

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