◎ 清水喜守さんの「Z世代の骨董ビギナーズガイド」掲載リスト
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たぶん僕が骨董界に深く足を踏み入れることになった最大の理由は、幼いころからあちこちのお店でいろんな店主の楽しいお話を聞いたことだと思うんです。こう書いてしまうとお喋りが苦手な骨董商の方々には申し訳ないので、あくまでも話し好きな店主さんの場合に限りますけれど……でも実際に、噺の達者な道具屋店主ってとっても多いんですよね。だから、不思議と研究者やコレクターさんたちの高尚なお話より、骨董屋のオヤジたちの与太話の方がしっかり記憶に残ってたりするような気がします。
ところで令和の時代になって、オンラインやSNSでの骨董販売が普通になりました。でもやっぱり若い方々には、恐れず臆さず実店舗に行ってほしいなと感じるのは、まさにそこなんです。確かに骨董界というのはあまりにも浮世離れしている一面があって、でも、だからこそ骨董商の話というのは普段聞けないようなものが多々あるのです。これを品物を見せてもらいながらじっくり聞くというのが、また極上の時間(ひととき)なんですよね。
さて、骨董商の話が面白いのはなにも日本だけではありません。僕は10代の頃からとあるイギリスの田舎町で、何人かのアンティークディーラー達ととても仲良くなりました。彼らの話があまりにも面白く、滞在中は毎日のようにお店に通い、閉店後は№10いうカフェに皆が集まり、またまた骨董話で盛り上がるのでした。みんな年齢差のある友人達でしたので、残念ながらもう亡くなってしまった方も多く、一番仲が良かったレイという親友も昨年逝ってしまいました。そのレイから聞いたオモロイ話を一つご紹介しましょう。
彼の知り合いに1人の「ノッカー」がいました。ノッカーというのはイギリスのアンティーク業界のスラングで、一般のお宅を訪ねて行って古美術を買い取るタイプの業者さんのこと。そう、日本でいう買い出し屋さんですね。ドアをノックするので彼らのことをノッカーと呼ぶ場合があるそうです。そののノッカーが、とある家の扉を叩くと年輩のレディが出てきました。ショップカードを渡して自己紹介をし、何か譲っていただけそうな物はないでしょうかと尋ねると、「よかったら見ていきなさい。」とリビングに通されました。部屋に入るなりそのノッカーは言葉を失います。部屋の隅に置かれていたのは、通称トールボーイと呼ばれる足付の縦長キャビネット。彼はこれが18世紀初頭のクイーン・アン時代の本歌である事に、一目見て気がついたのです。汚れてはいますがこれは逆に良いサイン。イギリスの家具はオリジナルに近いコンディションである事が大切で、後の時代にピカピカに塗り直してあったりすると、価値は大幅に下がってしまいます。このキャビネット、コンディションとしては理想的なウブい品でした。彼の見立てでは当時の相場で数万ポンド。日本円にして1千万円近くする掘出物でした。
ところがこのノッカー、つい魔が刺してしまいます。「これを何とか上手に安く買ってやろう。」と、思ってしまったんですね。彼はおばあさんにこう言いました。「このキャビネット、あまり高価な代物ではないけれど、いやあ、脚だけは素晴らしい。」クイーン・アン時代を代表するカブリオールレッグが印象的なキャビネットだったんですね。日本でいう猫脚。
「正直本体は要らないのだけど、脚だけ欲しいからこれだけ出しましょう。」と数百ポンドの値段を提示しました。日本円にして10万円程度です。ちなみにコレはバレたら訴えられますから普通はやってはいけない買い方です。当たり前ですね。
しかし、キャビネットの価値を全く知らない彼女は「えっ、そんなに高く買ってくれるのかい」と喜んで、トントン拍子に話がまとまってしまいました。ただし、使っていたキャビネットでしたから、中にはまだおばあさんの私物が沢山入っています。そこで中身を出しておくということで、ノッカーは一旦帰って翌日引き取りに来る事になりました。
ノッカーのおじさんは興奮してその晩寝れません。ま、そりゃそうでしょうな。(笑) 次の日ホクホクしながら再び扉をノックすると、昨日のおばあさんが出てきました。「あら、あなたね。あそこに置いてあるから持って行ってちょうだい。」と指さしたところには、棒のような物が数本。よく見るとなんと無惨にノコギリで切られた昨日のキャビネットの脚です。ノッカーはテンパりながら、「いったいどういう事なんです? 上の部分はどうしちゃったの?」と聞くと、「あなたが脚だけ欲しいっていうから、昨日息子と旦那に手伝ってもらって脚だけ切ったのよ。本体は裏の庭で壊して薪にして燃やしちゃった。」
どうです? こりゃもはや落語の世界ですよね。カフェ№10のみんなは大爆笑でした。ま、同時になかなか悲惨な話でもありますが……あ、今ようやくわかりました! たぶん骨董屋の話って、妙に俗っぽいからこそオモロイんですなぁ。
◎掲載品

青織部筒向付 元屋敷窯/桃山時代