◎ 清水喜守さんの「Z世代の骨董ビギナーズガイド」掲載リスト
*古美術28店主の清水喜守さんの連載「Z世代の骨董ビギナーズガイド」は、『目の眼』電子増刊号で連載中です。本連載は、2024年11月発行・電子増刊0号に掲載。
◎はじめに
1990年代初期。僕が仮病で小学校を休んで父に連れら れ、骨董店を廻っていたあの頃は、骨董関係の本が山ほどあ りました。店のガイドブックや、骨董の勉強に重宝するのは もちろんですが、骨董の初心者に向けたアドバイスや基礎知 識が入手できる良い教材でもあったんです。お気に入りの漫 画本よりボロボロになるまで読んだなぁ・・・・・・。
あれからさらに20年。気がつけばSNSの時代に突入し、 僕は知らぬ間にコレクターから骨董屋になっていました。そ して一応時代の流れに乗り、わりとはやい段階からSNSで の配信を始めます。その中で沢山のビギナーの方々と出会い、 様々なお声を聞いて僕なりのビギナーズガイドを度々投稿す るようになります。
しかしブログやホームページ時代以上にSNSはアップ デートが頻繁ですから、皆さんが何度も読み返せるように投 稿したコンテンツもすぐに埋もれてしまうのが現状です。似たような内容を定期的に少しずつ書き直して再投稿を繰り返 してきました。事実骨董界の常識の変化も以前より加速して いますし、このアップデートのスピードはある意味現代に 合っているとも言えるのかもですね。そうです。常識は変化 するんです。
そんな中で今回、SNSでしか配信していなかった僕のビ ギナーズガイドを『目の眼』に残してみようという事になり ました。当然僕個人から目線ですので内容は偏っていますし、 近い将来またサラリと上書きされていくものでしょうが、これが今現在このような形で存在する事で少しでも骨董の世界 に入りやすくなるきっかけになってくれたらなと思います。
ということで、田舎の若輩骨董屋が投稿するSNSのよう なテンションでの流れにはなっていきますが、しばしお付き それから十数年して、僕にとって新たなる良い教材が出現 しました。六本木の「栗八」さんのホームページです。当時 はネットオークションの出品テーマに合わせて様々な説明文 が書かれており、たまに初心者向けのアドバイスも書かれ ていました。非常に的確かつわかりやすい内容で、何より ネットを使ったそのスタイルには最先端の情報という印象を 強く受けました。当時の僕はまだ拠点が海外にありましたか ら、様々な国で彼の投稿を読んでいたのをよく覚えています。 合いいただけましたら幸いです。
◎ヒコイチ
ご存知のとおりSNSでの商売も少なくない当店ですが、 ビギナーの方に「最初はどんな場所で買い物をするのがオス スメですか?」と聞かれたら、相変わらず今でも「お店です。」 と僕は答えます。
僕がまだ中学生ぐらいだったころ、岐阜県土岐市にヒコイ チ堂というお店がありました。確か屋号は漢字でしたが「彦 一」だったか「彦市」だったか・・・・・・それすら忘れてしまいま した。初老のご夫婦が営むお店で、道路に面した自宅の土間 をそのまま店舗にしていました。入口はアルミサッシで中は 薄暗い蛍光灯。当時まだ日本全国に沢山残っていた「いった いどうやって生計を立てているんだろう?」と失礼ながらつ い思ってしまう、洒落っ気ゼロのひなびた骨董屋さんでした。
実は僕が初めて買った美濃物はこのお店が初めてなんです。 体格の良い関西訛りがあるおじさんと、いつもニコニコし てる小柄なおばさん。おばさんの声がとても優しい感じで、 昔話のナレーションとかしたらピッタリだなぁといつも思っ てました。 店には常に美濃の発掘品が少なからず置いてあり、長く滞 在しても必ず何か買って帰るので、おばさんがずっと説明をしてくれました。
おじさんはやきものより時計やらウルトラ マンフィギュアに興味があるようで、熱心に陶片を見る僕を 不思議そうに見ていました。 大した買い物をしたわけではありませんが、我々親子には キチンとお客さんとして対応してくれる骨董商でした。 20歳ぐらいになった頃、とある名古屋の骨董祭に立ち寄る と、件のヒコイチ堂が出店していました。いつもはお店ばか りでお会いするので、アウェイな環境はちょっと不思議な感 じです。さっそく品物を見せてもらうと、美濃の江戸初期の 振り出しと桃山の灰釉皿が目に入ってきました。
どちらも発掘品ですが、素晴らしい状態で、滅多に出る物ではありません。流石は地元の業者さんです。値段を聞き、即答で「買い ます」と伝えました。するとおばさんが、灰釉皿はプレゼン トしてくれるというのです。えっ、それではほぼ半額になっ てしまいます。「どうして?」と尋ねると彼女は嬉しそうに こう言いました。 「朝から商品をけなされたり値段交渉ばかりでウンザリして たけど、これの良さをわかってくれたのと、その気持ちのい い買い方が嬉しかったのさ」 それから数年後、知らないうちにお二人は亡くなり、店も 閉まってしまいました。あの飾り気の無いお店で僕は沢山の 物を譲っていただき、様々な事を教えていただきました。今 から考えれば、あれはお店という特殊な時間が流れる空間 だったらからこそ体験できた経験だったんだと思います。 あの時の灰釉皿は今は自宅の食器棚の中。あの皿で料理が 食卓に出てくるたびに、おばさんのあの優しい声が聞こえて くるような気がします。 良い買い物ってのはこういうものなのかなと。
◎掲載品 江戸初期/志野織部桃形向付

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執筆:清水喜守(古美術28 店主)
インスタグラム @artandantique28