この記事は、『目の眼』電子増刊10号の特集「大学博物館 知の宝庫を巡る〈東京編〉」に掲載されました。
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この地に首都が築かれて以来、とどまることなく変わり続ける街・東京。そのど真ん中の「丸の内」には、ビジネスもトレンドもグルメも観光も、ありとあらゆる最先端が取り揃えられているが、実はここに大いなる異空間が存在するのをご存知だろうか。それがJPタワー(旧東京中央郵便局舎)の中にある「インターメディアテク(IMT)」だ。

ここは、日本郵便と東京大学総合研究博物館が協働で運営する、学術文化総合ミュージアム。といっても小難しい場所ではない。一歩足を踏み入れると最新の東京から19世紀のヨーロッパに存在した「驚異の部屋(ヴンダーカマー)」へと転移したような不思議な空間につながる入口となっている。
❖本物だからこそ味わえる空間美
とくに本誌読者のような骨董やアンティークを愛するファンなら、展示室に入った瞬間、老舗の古美術店に入店したようなドキドキ感を味わうだろう。

東大が海外の学術調査で収集した考古学資料の展示も多い。

江上波夫教授が1930年代からユーラシア各地で収集した古代史標本。
東京大学総合研究博物館で数十万点を保管するが、そのなかから一部をインターメディアテクで展示している。
器物や剥製たちを収めている重厚な木製キャビネットやガラスケースの多くが、明治・大正・昭和初期に東京大学の講義室や研究所で実際に使われていた「本物のアンティーク什器」だからだ。経年変化で深みを増した木肌、手吹きならではの歪みを持つ古いガラス、鈍く光る真鍮の金具。そのひとつひとつに研究者たちの執念と歴史が染み込み、空間全体に圧倒的な存在感と説得力を与えている。
重厚な展示ケースは、いかにも歴史がある学府の存在感を示している。
そして館内に陳列されているコレクションのジャンルは、驚くほど幅広い。まず目につくのは館内を所狭しと闊歩するワニやクジラ、鳥類といった生物の剥製や骨格標本など自然科学系の資料が多いが、その傍らには精緻な意匠の古い蓄音機があったり、異形の仮面や民俗資料、さらにはギョロリとした瞳を持つ猛禽類の剥製や、結晶が幾何学的な美しさを見せる鉱物標本たちが静かに息づいている。もちろん、私たちの大好きな古陶磁や仏像なども充実しているが、それらを敢えて分類せず、ランダムに並べているのもおもしろい。
展示室に入って圧倒されるのが大小の骨格標本。全長7〜8mのミンククジラから、小さな魚、小動物まで、骨とはいえ、大型の骨格標本は迫力を感じる。
❖生きたコレクションの魅力
今回案内してくださった松原始特任准教授によると、東京大学では明治10年の創学以来、さまざまな研究資料が集まり、各種学術標本が蓄積されてきたが、それらを有効的に活用しようと独自の博物館活動を進め、1996年から本郷キャンパス内に「総合研究博物館」を開き運営している。

案内していただいた松原 始さん(東京大学総合研究博物館特任准教授)
IMTはその博物館機能を街の中に展開しより多くの人々に見てもらい活動を知ってもらおうと始められたプロジェクトで、2013年から開館し、つい先日来場者500万人を達成したという。IMTの設立あたり指針とした大きなテーマが「美術と科学の融合」を表すこと。施設の名称を「博物館」と名乗らずに「ミュージアム」としているのもそのあたりが影響しているそうで、展示物には古物だけなく、ドイツのマルチン・シリング社が製作した数理模型も多く紹介され、それらが他にない現代アートのような独特の造形美を放っている。

紀元前1000年頃の中国北部、殷(いん)や 周(しゅう)時代に作られた古代青銅器。精密な文様がみどころ。
またコレクションの中核をなす遺物は代々、東京大学で学び、教えてきた研究者たちが世界中から蒐めてきた資料で、そのコレクションは現在進行形でジャンルを越え、増え続けているのだという。つまりここに陳列されたモノたちが魅力的なのは、役割を終えた「古いもの」ではなく、いまも人類が未知の世界を解き明かそうとしている生きたコレクションだからだという。
❖骨董古美術との親和性
さらに、このミュージアムが大人も子供も外国から来た観光客をも魅了する最大の理由は、館内に「お仕着せの解説パネル」がほとんどないことだ。「これは何時代に作られた何々である」という親切な説明で脳を納得させることは、ここではあまり重要ではない。

山階鳥類研究所の寄託品ほか、鳥類標本約500点が収蔵されているガラス張りの収蔵展示室、Studiolo。一角にはかつて法学部で使われていた教授のデスクと椅子が置かれ、机の上には古いタイプライターやウマの頭骨、コガモとネコの交連骨格標本などが飾られて、推理小説のワンシーンのような雰囲気を感じさせる。
ここを訪れた人々は、目の前に現れた「モノ」の佇まいと真摯に向き合い、それが持つ傷や色合い、形から、かつての物語を自らの感性で妄想するしかない。このプロセスは、これらのコレクションを形成した研究者たちの追体験でもあり、古美術店で自分の五感を頼りに真価を探ろうとする、あのゾクゾクするような感覚によく似ているのではないだろうか。 知識や情報の消費に飽きた大人が、純粋に「モノの美」と対話し、自身の美意識を研ぎ澄ますことができる場所。丸の内という都会のノイズから離れ、いっときこの知的迷宮へ紛れ込んでみてはいかがだろうか。入場無料でありながら、最高に贅沢な時間がそこには待っている。
❖INFORMATION
JPタワー学術文化総合 ミュージアム 「インターメディアテク」
KITTE 2・3階 開館時間:11時〜18時(金・土曜は20時まで開館)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)、年末年始、その他館が定める日
入館料:無料
アクセス:JR東京駅丸の内南口から徒歩1分/丸ノ内線東京駅地下道より直結/千代田線二重橋前駅(4番出口)より徒歩約2分
問合せ:050-5541-8600 (ハローダイヤル)